写真集「最新版日本夜景遺産」
■お客様:河出書房新社 (2012年10月)
後世に伝え、残したい夜景を「日本夜景遺産」とし、2004年から2012年度の第八回認定を経て、現在は全国160カ所を数えています。
これら「日本夜景遺産」の活動や国内外への観光的波及効果は「あとがぎ」を参照していただくとして、最新版となる本写真集では全ての「日本夜景遺産」を網羅することはもちろん、日本における夜景の魅力をあますところなく紹介しています。
夜景は「夜のけはい」と定義されることから、その範囲は非常に広いものです。極端に言えばキャンドルを灯した部屋の中で視覚的に「夜のけはい」が感じられれば、それもまた夜景と言えるのです。しかし、あまりにも広義では非常に曖昧なものとなってしまうため、「日本夜景遺産」では、一般的に鑑賞対象なりえる夜景に絞り込み、「自然夜景遺産」「施設型夜景遺産」「ライトアップ夜景遺産」「歴史文化夜景遺産」の4つのカテゴリーを設け分類しています。
それにしても、世界の中でも希有な夜景鑑賞文化を有する日本だけあって、国内にはユニークな夜景が数多く見られます。“アゲハチョウの夜景”と称される青森県の釜臥山、夜景の中にハートや馬、蝶、龍といった影が見られる長崎県の稲佐山、夜景の中に平仮名で“くれ”の文字が見える広島県の灰が峰…と、数え切れないほどです。
また、これらの生活のために必要とされた明かりたちによる夜景だけではなく、「ライトアップ夜景遺産」のように新たに創造された夜景もあります。レインボーブリッジや東京タワー等は誰もが知るところではありますが、ボランティア団体に寄付することで山頂の鉄塔をライトアップする北海道室蘭市の測量山もユニークな存在です。これは“人に贈る明かり”と称され、眺める人々を温かい気持ちにさせる“心を照らすライトアップ”と言えるでしょう。思うに、これこそがライトアップの本質と言えるかもしれません。
さらに、日本には何十年、何百年も人々を魅了し続けている夜景が数多く存在しています。「日本夜景遺産」ではこれらを「歴史文化夜景遺産」とし、青森県のねぶた祭りや埼玉県の秩父夜祭り、長崎県のランタンフェスティバル等を分類しています。宗教的な側面もあり、日本は世界で最も夜祭りや送り火等の夜の伝統行事が多い国と言われていますが、これらも私たちを楽しませてくれる特別な夜景と言えるでしょう。
毎年、全国からは「日本夜景遺産」の候補地となる多くの情報が寄せられています。その数は日本夜景遺産活動が認知される共に毎年増え続け、数百カ所にのぼっています。どれも魅力的な夜景ばかりで、いずれ認定地が1000カ所にのぼることも夢ではありませんが、事務局では毎年慎重に審査を重ねながら、年に最大15カ所程度を認定しています。
というのも、単なる数量的な問題ではなく、最も大切なのはその質であるということ。ひとつひとつの夜景には感動をもたらす物語が眠っており、美しいとか綺麗という感動的な側面だけでなく、ひとつの美術作品を愛でるような感覚で深く、大切に接していただきたいという願いが込められています。時に、夜景鑑賞は人生を大きく変えるほどの決意をもたらすと言われています。全ての人の未来や希望を明るく照らし出す存在としての夜景の魅力をぜひ感じ取っていただければ幸いです。